日本にいるベトナム人の技能実習生の数は、近年他の国に比べ急増しています。しかし劣悪な労働環境や失踪、犯罪など悪いニュースばかりが多く取り上げられていることが多いように感じられます。
制度の理念はとても素晴らしいものなのに、なぜそのようなことが起きてしまうのでしょうか。実はこの制度の理想と現実には大きな溝があるようです。
ベトナム人技能実習生が置かれている状況や、日本が抱える問題、実習生が抱える苦悩などを明らかにし、制度の実態を把握していきましょう。
外国人技能実習制度とはどのような制度?誰のため?
そもそも外国人技能実習制度がどのような制度なのかを改めて確認してみましょう。最近はベトナム人の技能実習生のニュースが何かと話題になっていますが、もちろん対象はベトナム人だけではありません。
制度の概要や日本がこの制度を作った理由などを見ていきましょう。
国際協力の一環である、外国人技能実習制度の概要
外国人技能実習制度は2016年に制定され、2017年から施行された新しい制度です。
開発途上国の若者を対象としており、その主旨は日本で学んだ技能や技術、知識を生かして開発途上国の経済発展のための人づくりに寄与する国際協力です。
制度の理念として、「技能実習生が労働力の需要の調整の手段として使われてはならない」としています。
外国人技能実習生が受け入れられる対象職種は下記の内容です。
- 農業関係
- 漁業関係
- 建設関係
- 製造関係
- 繊維・衣服関係
- 機械・金属関係
- その他(家具製造、印刷、プラスチック成形、段ボール製造、自動車整備、ビルクリーニング、介護、リネンサプライなど)
出典・参照元:JITCO (https://www.jitco.or.jp/ja/regulation/)
日本が外国人技能実習生を受け入れる理由のねじれ現象とは
日本が外国人技能実習生を受け入れる表向きの理由は、国際協力の推進です。しかし実態はどうでしょうか。
日本は少子高齢化社会の一途をたどっており、近年は労働力不足が問題となってきています。とくに上記の外国人技能実習生を受け入れる対象職種は、労働力不足が極めて深刻な産業や職種であることは明らかです。日本人の若者がやりたがらない、いわゆる3Kの職場であると言えるでしょう。
表向きは技能や技術、知識を日本で取得し、帰国後に自身の国の発展に貢献するためとありますが、実際は不足している労働力を補う手段として使われているということは否めません。
もちろん一時的な労働力の補填だけではなく、優秀な人材の確保を行うために積極的に外国人の受入制度を整えている会社もあります。
しかし外国人技能実習生の受入制度は、表向きと実態というダブルスタンダードが絡み合う中で成長し、進んできた制度なのです。
2023年までの目標は145万人以上!
2018年末までの外国人技能実習生の人数は32万8000人を超えています。国別の割合は人数の多い順に下記となっています。
- ベトナム
- 中国
- フィリピン
- インドネシア
- タイ
- その他
中でもベトナムは全体の50%を超えており、ダントツです。
さらに政府は2023年までに145万5,000人受け入れることを目標としています。しかし現在の時点においてもまだまだ企業側の受入体制が整っていないことも多いのが実態です。
出典・参照元:JITCO (https://www.mhlw.go.jp/content/000525604.pdf)
ベトナム人の技能実習生とは
上記のように現在外国人技能実習生の中で、ベトナム人の割合はトップとなっています。なぜベトナム人が他の国を抑えてダントツに多いのでしょうか。その理由と実態を探ってみます。
夢と希望を抱いて来日。ベトナム人が技能実習生として日本に来る理由
ベトナム人が技能実習生として日本に来る一番の理由はやはり「お金」です。送り出し機関での厳しい研修を経て、中には手数料を借金してまで来る大きな目的は、お金をたくさん稼いで故郷に持ち帰ることであるといえるでしょう。
ベトナム人技能実習生の出身地はハノイやホーチミンのような大都市ではなく、地方出身の高卒者がメインです。地元には仕事が無く、仕事にありつけても月収わずか1万4000円ほどが最低賃金です。日本での技能実習生として過酷で低賃金で働くとしても、ベトナムで仕事について働くよりはまだマシといった状態なのです。
さらにベトナム人の日本という国に対しての信頼は厚く、ベトナム人の若者の日本の文化や、高度な技術への憧れもあるでしょう。日本で技術を学び日本語も習得すれば、帰国後に所得の高い職につけるという夢と希望を抱いてやってくるのです。
低賃金でも貯金できる?ベトナム人技能実習生の実態
たとえ外国人技能実習生だとしても、雇用主は国が定める最低賃金以上の金額や残業代などを支払わなければなりません。しかし実際は寮などの住居費が差し引かれたりして、最低賃金以下の給料で働いていることが多いのが実情です。
しかしそんな月収わずか6万円~9万円ほどの中でも日々の生活費を抑え、毎月コツコツ貯金をし実家に送金をしたり、送り出し業者にした借金の返済も完了をしたりしながら、3年間で200万円を貯める技能実習生もいます。
夢と希望を抱いてやってきた日本で絶望して帰国する技能実習生も多い中、過酷な環境でもお金を貯めて帰国し、再度来日したいと考えるベトナム人の若者ももちろんいるのです。
もう1つの在留資格「特定技能制度」との違いとは?
実態はさておき、外国人技能実習生を日本へ受け入れる理念は、不足している労働力の補充ではなく、開発途上国への人づくりへの国際協力です。
しかし実際に日本の労働力不足は深刻な局面にきており、日本政府は2019年4月から新たな制度を打ち出しました。それが外国人の「特定技能」としての在留資格です。
下記の14種類の特定産業分野において、外国人を労働者として採用することができるようになったのです。政府は新たな在留資格である特定技能の5割は、これまでの外交人技能実習生からの移行を期待しています。
- 介護
- ビルクリーニング
- 素形材産業
- 産業機械製造業
- 電気・電子情報関連産業
- 建設業
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空業
- 宿泊業
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
とくに人材不足が顕著な分野での労働力として大いに期待されています。外国人技能実習生の在留資格が基本的に3年であることに対し、特定技能での在留資格は5年で、転職も可能です。外国人として正式に日本で働く在留資格が緩和されたというイメージでしょうか。
出典・参照元:外国人雇用の教科書(https://visa.yokozeki.net/tokutei-ginou/)
BUSINESS INSIDER(https://www.businessinsider.jp/post-182323)
ベトナム人が技能実習生として来日する流れ
ここからはベトナム人が実際に技能実習生として来日する流れを追ってみましょう。二国間で一体どのような機関が連携してベトナム人を送り出し、受け入れているのでしょうか。
ベトナム側の送り出し機関とは?
日本とベトナムの二国間の取り決めによれば、2018年9月以降からは国から認定された送り出し機関以外からの受入は禁止となりました。
ベトナムでは2019年時点で300以上の認定送り出し機関があります。そのほとんどはハノイ、ホーチミンに集まっており、ほんの一部がダナンやタインホア、ハイズオン省などの地方にあります。
送り出し機関には主に地方の高卒の若者たちが集まり、全寮制で数か月に渡り日本語や日本語文化などを学び渡航に備えます。
この送り出し機関に支払う保証金などを含む手数料が高額だとニュースになったことがあります。中には日本円にして100万円もの手数料を業者に支払ったケースもあるそうです。
国際的な批判も受け、ベトナム政府はこの手数料の額を3,600ドルを上限とし、保証金の徴収を禁止しました。しかしいまだに高額な手数料を支払わされているケースが後を絶たないようです。
先日お会いした下記の機関は校長先生も日本人の方で、非常に信頼のおける機関となっております。
私自身もホーチミンの学校を訪問し、日本に行くために真剣に勉強・実習をしている学生たちの姿を見て感激しました。
動画もありますので、ぜひ見てみてください。
零細企業が半数。日本側の受け入れ組織とは?
日本側での受け入れ方法は2種類あります。
- 企業単独型:日本の企業が海外にある海外の現地法人や合弁会社、取引先企業の人材を受け入れて技能実習を行う
- 団体監理型:海外の送り出し機関から、日本の受入組織である事業協同組合や商工会議所が人材を受け入れ、その傘下にある企業で技能実習を行う
2019年の時点では、団体監理型の受け入れが96%以上で、受け入れ先機関の半数以上が従業員が19人以下の零細企業となっています。
出典・参照元:JITCO (https://www.jitco.or.jp/ja/regulation/、https://www.mhlw.go.jp/content/000525604.pdf)
ベトナムに帰国後、習得した技術は活かせるのか?
日本で技能実習生として農家や工場などで3年間働いたとしても、必ずしもその技術や技能が帰国後に活かせるわけではありません。来日する前に抱いていたイメージとは違い、過酷な労働環境で残業も多く、帰国後に活かせる技能や技術も学べないということが実態です。
しかしたとえ最低賃金以下だとしても、節約すればベトナム国内ではできないような金額を貯金できることは確かです。中には貯めたお金で故郷の両親に家を買ってあげることができたという人もいます。
来日前の希望を裏切られ3年間我慢して絶望して帰国する人もいれば、しっかり日本語を学び帰国後に日本語を活かした職についている人もいます。
たとえ日本で習得した技術が帰国後に直接活かせないとしても、日本人のマナーや勤勉さ、仕事に対する意欲などで学ぶことが多かったという声も聞かれます。
実習をする場所の当たりはずれはもちろんありますが、その環境で何を学んで帰るかというところも、帰国後の生活に影響を与えるようです。
ベトナム人技能実習生が抱える苦悩や問題
ベトナム人の技能実習生が劣悪な環境の労働条件で働かされていたり、失踪、犯罪を犯してしまったというようなニュースが取り沙汰されたことは記憶に新しいことです。
国際的な非難もあり、両国間での改善策が取られたりしていますが、ベトナム人技能時修正の抱える苦悩や問題はまだまだ続いています。
具体的な内容を見ていきましょう。
ベトナム人技能実習生が抱える借金は、年収の数倍にも
ベトナムの送り出し機関によっては、「技能実習を3年~5年行えば280万円~420万円も貯金ができる」などという内容を謳い文句にして地方の若者を集めたりしています。
ベトナムではベトナムの送り出し機関に支払う手数料の上限を3,600ドルとしており保証金の徴収も禁止していますが、不法な手数料を取る機関は未だに存在しているようです。
たとえ高額な手数料を支払っても日本で働けばすぐに返せるというような幻想を抱かせて、平均年収の数倍にも登る金額を支払わせるケースもあるのです。
この手数料を両親が土地を売ったりして工面する場合もあれば、自信が借金をして支払う場合もあります。
しかし高い利子のつく借金は、日本での低賃金の給料だけではとても返せないことが多くあります。
こうして一部のベトナム人は多額の借金を背負ったまま技能実習を終え、ベトナムに帰国せざるを得ない状況となっているのです。
ベトナム人技能実習生が失踪する理由
ベトナム人技能実習生が失踪する大きな理由は、実習内容のマッチング、受け入れ先の環境、ベトナム人実習生のモラルというのが代表としてあげられます。
正確な情報をキャッチし、きちんとした送り出し機関を利用して来日すれば、高度な技術を習得できる会社で実習することも可能です。
しかし多くのベトナム人技能実習生が働く場所は、工場や農家、もしくは建設現場です。日本に行きエリートになって帰国することを夢見た若者の実際の労働が、農家での手伝いだとしたら、そのギャップに絶望することもあるでしょう。
また劣悪な受入先に当たってしまった場合、最低賃金以下の給与や残業代を支払わなかったり、違法な保証金を預けさせられたりすることもあります。希望をしていない職場での過酷な労働と劣悪な環境での生活を強いられ、絶望し失踪してしまうベトナム人がいたことは事実です。
さらに近年では最初から脱走を計画し、不法に滞在することを目的としてこの制度を利用するモラルの低いベトナム人実習生もいるようです。
指摘される問題点
問題ばかりが指摘される外国人技能実習制度ですが、実は多くのベトナム人実習生と日本の受け入れ先では良好な関係を築いています。
しかしやはりこの制度においてはまだまだ問題点があることは指摘せざるを得ません。具体的な問題点とは何になるのでしょうか。
日本政府の理念と受入先の実態のギャップ
日本政府が表向きに掲げている理念と、実際の受け入れ先の受入理由との実態に大きなギャップがあります。このねじれ現象が、表向きには実習生として技術を学ばせるのだからという理由で低賃金や劣悪な環境しか与えないにもかかわらず、実際の実習内容は労働力の補填であるという状況を作り出しています。
ベトナム人が描く理想と現実の差
ベトナム人実習生の抱く理想と現実の大きな差もあります。日本の国のイメージと技能実習制度の理念を照らし合わせれば、日本で技術や技能、知識、更に日本語までを習得して、帰国後にエリートになれるという夢を抱くことも無理はありません。
ベトナム人の目的と日本の受け入れ先の想いのすれ違い
ベトナム人実習生の中にも技術を習得しようという気が無く、出稼ぎという目的のみで来日する人も中にはいます。その中には実習期間を終了する前に脱走し、失踪してしまう人もいます。最初から失踪するつもりでこの制度を利用する人さえいるのが現実です。
不正な送り出し機関の存在
ベトナムの300を超える送り出し機関の中には不正な業者も存在します。もしくは認定を受けてないブローカーのような悪徳業者も潜んでいます。それらの業者では、書類を偽装したり、高額な手数料をベトナム人に払わせています。失踪したベトナム人技能実習生の半数以上がこのような業者に手数料として100万円以上払ったという調査結果もあります。
日本人のベトナム人実習生に対するリスペクトの欠如
ベトナム人実習生の実際の声を拾うと、「外国人に対する偏見や差別」というのが彼らを苦しめるひとつの要因となっていることが分かります。
同じ労働をしている日本人との待遇や扱いの差や、同じ外国人でも白人とベトナム人との違いなど、同じ人間として不当な扱いを受けたという事が大きな苦悩となっていることは事実です。受け入れる日本人側のモラルも大きく問われているのです。
まとめ
外国人技能実習制度ができてまだ間もないため、手探り状態のところもあるでしょう。試行錯誤を重ねている段階かもしれません。しかも政府が掲げる大きな目標とは裏腹に、受け入れる企業のほとんどが零細企業であり、制度も受け入れる心構えも整っていないことが多い状況です。
失踪や犯罪が起きたり、国際的な批判を受ける中で制度の見直しも進み、受け入れ先企業の環境改善は進んでいるようです。しかし今度は逆にベトナム人実習生のモラルや、送り先企業の不正などが目立ってきています。
新たな「特定技能」という在留資格も制定されたため、こちらも含めて制度や実態が適正化され、両国間の若者や国にとって、価値のある制度になっていくことが望まれます。
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